Film Scores 編曲ノート② 「波の盆」

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武満さんの映画やドラマのための音楽の中でも、
単体の楽曲としてたいへん人気が高いのが
この『波の盆』のメインテーマです。

1983年に日本テレビ系列でスペシャル・ドラマとして
放送になった『波の盆』は
脚本が倉本聰、監督が実相寺昭雄、
音楽が武満徹さん、と、
まさに豪華な布陣で製作され、
ハワイに移民した日本人からその2世3世たちの物語を
太平洋戦争の時代と織り交ぜながら描きます。

僕はそのメインテーマの部分を中心に
ギター独奏版に編曲しています。

4小節目3拍に出てくる和音は、
原曲のスコアだと
F/D7のような和音で書かれていて、
その構成音をいくつか省略して
ギターで弾けるようにしたものが
編曲譜のようになったのですが、
ちょうどこの編曲譜に書いてある
したから[F#-C-F-A]というのと同じ和音は
「森のなかで」の第2曲、
「ローズ・デール」にも登場しますので、
もしかすると武満さんのギター曲にも、
オーケストレーションしたらもっとシンプルな
トライアードの2階建てなのだけれど、
ギターで弾くためにそうなっている、
というハーモニーが多くあるのかもしれないな、
と思いながら編曲しました。

FというコードとDというコードは、
お互いを7th(+♭9th)にすると、

F7♭9 [F-A-C-E♭-G♭(=F#)]

D7♭9 [D-F#-A-C-E♭]

と、根音以外は同じ和音になってしまうのです。
これと

B7♭9 [B-D#(=E♭)-F#-A-C]

は似てるからちょいちょいすり替えや代理にしたり、
全部を一種類のディミニッシュ・コードで
アドリブを賄ったりできる関係なのですが、

その関係にある和音どうしを、
上記のように似通わせることなく
重ねてぶつける、という手法は
武満さんの音楽にも、よく見かけられるものです。


それと、これは
僕の個人的な印象ですが、
武満さんの曲の場合、
例えばF#はドイツ音名では
Fisなので、語呂合わせで
それを英語のFix(固定する)と捉えて
そのような性格を持たせたり、
D♭はDesなので、英語のDeath(死)の
意味を持たせたりするのですが、
Fという音や和音にも
固有の意味づけがあるように感じられます。

また、Fというのは、
古来音楽で追悼の意に結び付けらることが多かった
ニ短調の第3音、つまり短調を決定づける音であること、
F=ファが、ド から数えて4番目の音階名であること、
など
何かの象徴として機能しているのかな、
と思うことが少なくありません。
あくまで僕の私見です。


話が
ぜんぜん『波の盆』じゃなくなっちゃいました。
すみません。

この曲に関していうと、
弦楽オーケストラの万感迫るような
大きな旋律線はギターでは描けないのですが、
ハーモニーの推移は
驚くほどオーケストラのスコアが
すんなりギターのコードに置き換えられてしまいました。

ですので、
一番編曲の手が混んでいるのは
前奏ではないかと思われます。



話はまた横道にそれますが、

『波の盆』の物語では
広島の被曝が大きく登場人物たちに
影を投げかけるのですが、

実は1989年の映画『黒い雨』に登場する
原爆のシーンでの不吉な弦楽器のフレーズは、
この『波の盆』の劇中に似たものが早くも登場しているのです。


僕は編曲ではその部分は使っていませんが、
写真の、サウンドトラックのCDには、
「ヒロシマ」
というタイトルで収録されています。

この『黒い雨』のサウンド・トラックについては
いずれ順番がきたらお話ししますが、
この映画の音楽にも、
Fという音はたいへん重要な役割を果たしており、
また、後年、「森のなかで」の第3曲、
「ミュアー・ウッズ」
に登場する
[A-C#-F]
という和音が登場しています。
この和音の特徴については
いずれその時に。



























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