2006年に僕は一人でニューヨークに行った話

新年明けて、いろいろな音楽を聴いています。
今年はベートーベン・イヤーなので、
ヘレヴェッへの4番と7番を聴きながら部屋のワックスがけをし、
ミサ・ソレムニスを聴きながらお酒を飲んだりしています。

その最後にふと気になって、
2006年にリリースされた自分のアルバム、
ブランドン・ロスさんとツトム・タケイシさんとの
トリオの『夢の引用』を聴き返してみました。

実は僕は、このアルバムについては
ほとんどが編集なしのテイクなので、
細かな部分が気になってあまり聴き返したことがなかったのです。
が、同時にこのアルバムは
たくさんの方から“名盤”と言っていただいてきている
自分にとっても思い出深いアルバムです。

この年(2006年?)、僕は2回ニューヨークに行きましたが、
そこはまだ9/11のテロの傷跡が色濃く残る、
それでも人々が希望を持って生きようとする
とても複雑なエモーションに包まれた都市でした。

道を歩いていると
アフリカ系のおばさんに声をかけられる、
驚いて少し逃げ腰に振り向くと
「あなた、カバンのポケット、ファスナー開いているわよ?」
と親切にしめてくださる。
スターバックスで朝食のサンドイッチとコーヒーを楽しもうとしていたら
目の前の窓からブラインドが突如落ちてきて
コーヒーは床にこぼし、サンドイッチはコーヒーびたしにしてしまったのに
後ろの席の人はもしかしたらシミがついたかもしれない
背もたれにかけていた自分のジャケットには目もくれず
「大丈夫かい?」と全力で優しくしてくれて、
ショップの店員さんもすぐさまこぼれたコーヒーをモップで拭いてくれたばかりか
違う方向から違う店員さんが新しいコーヒーとサンドイッチを持って現れる。

そんな、過剰な優しさが溢れていた時期でした。

ブランドンさんとツトムさんは、
普段、例えばクラシックの12音技法のような、
音程を解析するかのごときインプロヴィゼイションをしていて、
それを録音する武満さんの曲にも生かしたいと言っていました。

そのセッションは夢のようで、
毎日快調にすぎてゆきました。
録音とミックスを一人で引き受けてくれた
チャックさんは、
あのプリンスの『バットマン』のサントラを手がけた人でした。
ちなみにこのサントラは武満さんのお気に入りだったそうです。


実はその時期、
僕は重大な右手の故障に悩まされており、
私生活では離婚に伴う心労を(もちろんこれは自分のせいなのですが)
大きな荷物として抱えておりました。

ですから、この時の録音は
一つ一つの音が
自分にとって絞り出すような苦悩を伴っており、
しかも、その後どこへ行くともしれぬ
自分の心の孤独をうまく消化できないでいる状態で
紡いだ音でした。



今日、すごく久しぶりに聞いて、
自分が思っていたようには細部は気にならない、
というかどこを気にしていたのかわからない
というのと同時に、
未来の自分に向けて、
「今とっても寂しいけど、音楽を表現することこそが
自分の生きている証明なんだよ」
と語りかけてくるやんちゃな音たちに、
なんでかわからないけど
励まされたような気持ちになりました。

ブランドンさんと2011年
IMG_0428.jpeg


























この記事へのコメント