ポークのそこぢから

友人のピアニストKくんは、
この世のお肉のなかで、
ポークすなわち豚肉こそが
最高の味わいを持っていると主張してはばからない。

彼は以前、体調を崩し、
いつ治るとも知れぬ不調に陥ったことがある。

はじめは
あまりに敏感な神経の連鎖が調和を乱し、
ほんのわずかにバランスを失っただけと思えたのに、
そのバランスはなかなかもとには戻ってくれず、
結局、食生活さえままならぬ状況になってしまった。

そのような状況にあっても、
彼を勇気づけ、支え続けたのは、
キャベツの消化力と、豚の生姜焼きの旨味であった。

なぜだかわからないけど、
豚は、食べられた。
ジューシーな肉汁、甘みのある脂身、
噛めば噛むほど口に広がる赤みの歯ごたえ。
醤油と生姜のからまった豚肉は
まさに、
彼の、体を支えるタンパク質のすべてといっても
過言ではなかった。


時は経ち・・・・

からだも復調し、
以前にも増して精力的に新しい作品に打ち込むようになった彼だが、
あの、
一番つらい時間をともに過ごした豚肉のことだけは
ひとときも、忘れたことがなかった。

豚肉がなければ、
彼は、
ベジタリアンになってしまっていたかもしれないのだ。


ところで私は、
この世のありとあらゆる食材の中で、
羊の肉が一番うまい、と主張してやまない。

母と父が離婚したばかりの頃、
日曜日も休みなく働き続ける母が
ようやく連れて行ってくれたハイキングコースの最後に、
一緒に参加した幼なじみの女の子の親子と一緒に食べたジンギスカン。
久しぶりの日曜日、
久しぶりの行楽、
そして、初めて食べたジンギスカン。
以来私は、
羊の虜になってしまったのだった。


かくして彼と私の酒の席では、
豚か羊かの論争が果てなく続いてきた訳である。

もちろんのことではあるが、双方、
まったく譲るつもりはない。


そこである会が始まった。
私が、全身をふるわせながら涙するような
豚肉料理を、彼が見つけるべく行動を開始したのである。

もともと、
ポークならなんでもうまいと感じてしまうKであるから、
そのポーク料理に等級をつけ、評価し、
人に勧めることなど、できるはずもない、
私はそうタカをくくったのであるが、
敵もさるもの、
山形庄内地区にて生産されたハーブ豚しゃぶしゃぶなるものを
私に食すよう命じてきた。

こんぶの出汁をくぐった豚肉もうまいが、
豚のくぐった出汁を吸った野菜がうまい、
いや、豚と野菜のくぐったスープはもっとうまい、
これでは、うまいのは豚肉なのか豚の出汁なのか、
よくわからなくなてしまうほどであるが、
さすがの私も、
すんでのところで、「まいった」と言いそうになったことは否めない。

そんな私を制して、Kは言い放った。

「いや~、今日のも美味しいけど
豚肉のそこぢからって言うのは
まだまだこれだけじゃないからね~~」


ほんとうなのか!!

ほんとうだとすれば、
私のポークに対する認識は
彼によって塗り替えられてしまうのか!!

新潟の山奥育ちの私の母は、
子供の頃から肉などほとんど食べていなかった。
牛は大切に育てて売るものであり、
わずかに手に入ったのは、
時折、裏手の養豚場から紛れ込んでくる
迷い豚のみであった。
だから、彼女は今でも豚以外の肉を食べない。
肉じゃがもすき焼きも、全部豚肉、
親子だって他人丼であったのだ。
そのうえ、
成人した私が、牛や鶏の肉を食べさせてもらい、
我が家が豚であったのは
その肉の安さが理由であったことを知ったときの衝撃、
そんな私のトラウマさえをも、
Kはぬぐい去ってしまうというのか!!

帰路についた私のまぶたに、
勝ち誇ったKの笑顔がこびりつき、
「鈴木君、目をつぶると見える動物って、なーんだ!?」
という謎掛けにどうしても答えられない自分がいるのであった。。。。




↑この物語は核心部分をのぞいてフィクションです。



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この記事へのコメント

あや
2011年06月02日 00:17
2回目もレポ楽しみにしてます。気まくらは録音して聴いてましたよ。公開収録にも行きました。荒城の月もいいですね。
ふらの
2011年06月02日 02:13
近Dさんの豚、兄貴の羊の話しに涙でた。 K藤さんの苦しみに似た実体験を自分もしたです。半年セブんイレブん¥180のカップうどん、一日一食を食べるのに1時間以上かかった。当然体重も半年で16キロ痩せた。その頃に知り合いの競馬騎手からキャベツを食べれ、とにかく食べれ。 それから食も少しずつ戻り半年で15キロ増えた。「生命のうどん」と命名して、それ以外はカラダがうけつけなかった。 ココロとカラダを大切にしましょう。 なんて昨日看護婦さんに血圧高ーーーい!とホメラレタちゅー話しで〆。ハァ・・
yuki
2011年06月02日 20:13
本当に羊肉がお好きなんですね。
私が思うに、豚は将来自分が喰われるっていう事実を
常に受け止めながら生きてる気がするんです。
だから私は何も気にせず豚食べます。
でも羊は、毛だけで十分じゃねぇかって思ってる気がするんです。まだまだ豚みたいに肉の定番にはならねぇぞって。

写真の左下のブタさんが可愛い(^^)

天空仙人
2011年06月02日 21:54
今日は仕事がホントにくたびれ、練馬で焼き肉食べようと思ったら目指すお店がない!!
で、
仕方なくジンギスカンをやってる定食屋に入りました。

ん~、美味しい。
満足。
でも焼き肉やが何故見つからないのか疑問で、店の人に聞いてみたら空き地になってますよ、と。

あらま。
呆けじゃなくて良かった。

ゆき
2011年06月02日 22:14
大介さんのジンギスカンの思い出、私と真逆でグッときました。私にとってジンギスカンは一家団欒、戻らない幸福の象徴。一家がまだ全員笑顔だった頃、満開の桜の下で食べたジンギスカン。なんとも懐かし哀しの味…。以来誰と食べてもどんなに大勢で囲んでも、何かが欠けてる味となってしまいました。旨いんですけどねぇ~。

因みに初牛肉はボンカレーです。
嫁にきて初めて牛のすき焼きを食べた時、ボンカレーの匂いがする!と妙に感激しました。

ところで写真の豚、なんと魅惑的な…。
「うふふ…どう?アタシ美味しそうでしょ?」
と全身で豚肉の美味しさ加減を表現していますね~。

ふらの兄さんのとこ富良野もブランド豚肉がありますよね?

ふらの
2011年06月03日 13:31
↑↑↑姉さんのおっしゃるとおりです! 従兄弟も養豚農家です。町内には数万から十万位は養豚されてますので、たぶん北海道で一番かと思います。食肉センターと臭いの問題で、北海道ならどこでもいい訳じゃないのです。隣り町にサフォーク種の羊がいます。 K藤さん、A貴が還暦で電撃引退して家畜業なんてのが、あるかも。。北海道三笠市(みかさ)にワイン農家があって園内の葡萄畑にクラシック音楽を流し栽培してます。全ての行程をこの農家さんがしています。。「K&Sフレッシュポークco.」なんか出来る感じがしてきた。。安心して下さい、コンビニありますから‥!

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