優しい男

土曜日に結婚式だったH君は、
高校の同期生で、僕がやっていたバンドのベーシスト。

彼は、例えば、釣りバカ日誌の浜ちゃんみたいなキャラクターで、
人生を楽しみ、幸せを見つける天才なのです。
それから、僕より誕生日が早いけど、
それはそれは、たいへんな甘え上手。

昔、バンドの練習が終わったあと、
しきりにH君が、サックスのW君を飲みに誘っている。
「ねえねえW、今日さぁ、飲みにいかない?」
「・・・いいよ。何時?」
「うんとさぁ、じゃあさぁ、18時にシャル中は?」
(シャル中とは、横浜の駅ビル「シャル」の中央エスカレーターのこと)
「・・・・いいよ。じゃ、一回楽器置いてくるから。」
「・・・でさぁ、Wさぁ・・・今日・・・・・奢ってくんない?」
「!!!おまえ、なんでおまえから誘っておいてそう言うことになるんだよ!!」
「いやぁ・・・だって・・・そういうことってよくあるじゃない?」

わけがわかりません。

僕が留学から帰ってきて、
下宿にぷすぷすくすぶっていたとき、
Hもくすぶっていて、夕方になると、焼酎のボトルをぶら下げて
遊びにきていました。
たまに万馬券をあてると、ものすごい量、食べきれないくらいの
スナック菓子とかおつまみ買ってきてくれました。

僕の父親がまだその頃健在で、
Hを息子のようにかわいがり、よく飲みに連れて行ってました。
Hのお父さんは、しっかりとした大企業の、とてもしっかりとしたポストの方で、
それが多少、若い時のHには重荷だったらしく、
うちの父の、いい加減な、その場その場の刹那な性格が、
彼にとっても癒しだったみたいで、
実の親子以上に気があっていたみたいでした。

その僕の父が、癌をわずらった時も、
Hは、自分が早くになくしたお母さんとの病室の思い出を、
酒を飲んではぽつぽつと語っていました。
きっと僕を慰めてくれていたのでしょう。

父が亡くなった翌日翌々日と、僕はコンサートがあり、
とりわけ、お葬式の日は三鷹でのリサイタルでした。
お通夜の日、コンサートから帰って、父の顔を見に行くと、
Hが来てくれていました。

その後、父の思い出話で酒を飲み、
しんみりとした夜だったのですが、僕が、
「明日はリサイタルで、プログラムが重いから帰るよ」
と言うと、
「え!!!? どうしてだよ? だいちゃん、今日は朝まで飲むんじゃないのかよ?」
と、涙声で訴えたH。

何事よりも仕事が最優先で、
その時々の気持ちより、自分の立場や見栄を先に考えてしまう僕が、
少し冷たく感じられたのかもしれません。

その後、僕が東京に引っ越して、
H君とも連絡が疎遠になり、つい最近、昨年くらいからまた会って
飲みにいくようになったのですが・・・・

その間、H君は会社の都合で宇都宮に暮らし、
公私ともにたいへんな時期をすごしたみたいです。
なにより、H君のことを、厳しいながらも、男手一つで育て上げ、
ほんとうに大切に思っていたお父さんがなくなってしまったということ。

最後の最後に、
H君は、お父さんの教えや、暖かさを、身をもって感じたようです。

辛い宇都宮生活の中で見つけた奥さんとは、
今年のお父さんのご命日に入籍したとか。
今では、会社でも有望な人材として貢献しているようだし、
なにより、披露宴での、H君の大学時代の友人のみなさんや、
会社の上司のみなさんの、やさしい、きさくで、ゆとりあるお人柄には、
H君が日頃、どれほど幸せな人に囲まれて生きているのかを、
まざまざと見せつけられました。

昔、ホアキン・クレルチがいってました。
「コンクールも、音楽も、生徒も、仕事も、そういうことより、ほんとうに、
一番大切なのは、スズキ、わかるか?
良い人たちに囲まれていきていくことなんだぞ。」
それをちょっと思い出しました。

家族を愛して、周囲の人に優しく、毎晩心地よく酒に酔って、
きちんと仕事をし、家庭を持ち、家の立て替えをし、
そういう、すっごく自然な生き方のH君を観ていると、
僕は自分にないものを彼がすべて持っているようで、
うらやましくもあり、またそれ以上に、
まるで弟のようなH君がそうやって幸せになっていくのが、
なによりも嬉しく、
結婚式と披露宴ではかなりぐっと来て、涙腺やばかったです。

H、ほんとうにおめでとう。




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この記事へのコメント

siroko
2007年10月29日 21:57
「優しい男」
Hさんも本当に優しいお方のようですが、
そのHさんのことをとてもよく理解してあげている
大介さんはもっと「優しい男」なんだなあと思って読ませていただきました。
ysk
2007年10月29日 21:58
素敵な文章ですね。
大介さんもたくさんの幸せに包まれますように!
haruru
2007年10月29日 23:23
大介さん、私の涙腺やばかったです。しかも、会社帰りの電車の中でですよ。
ちょっと弱りかけた私の心に、じ~んときちゃいました。
大介さんのお話から、Hさんの優しいお人柄はもちろんですが、大介さんの優しさや温かさが伝わってきました。
本当に良いお話を、ありがとうございました。
YOYO
2007年10月29日 23:34
感動しました☆
だんごママ
2007年11月09日 00:41
Hさんの奥さんの友人です!
あの披露宴での演奏にすっかりメロメロになった
新婦友人テーブルのひとりでございます。

恥ずかしながら、プロの前で無謀にもフルート吹いちゃった...(^^;)

私達新婦友人サイドにとって
Hさんとの交流はこれから、というときなので
大介さんの日記を拝見して涙が止まりませんでした。
こんなに大介さんに大切に思われているHさんだったら
私達の親友を託しても大丈夫だと!

逆に、大介さんの大事な親友のHさんのことも
彼女ならば全力で支えてくれると思いますよ。
太鼓判、押させていただきます☆

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